デザインスプリントをオンラインでやってみた話

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2021年7月に、デザインスプリントを初めて実践した初心者の記録です。

デザインスプリントをすることになったきっかけ

1. ボスからの指令と新型コロナ

6月ごろに弊社のボスが突然チャット上で「弊社SaaSサービスのWebサイトはあまりに質が良くない。わかりづらい。どうにかせい」と号令を発したのがそもそものきっかけでした。

弊社は大きく インフラ/受託開発/自社サービス みたいな感じのチーム編成になっており、私は受託開発チームのディレクターです。

なので別チームの話ではあったのですが、前から「わかりづらいなー」「どこかで立ち止まってちゃんと検討したらいいのに」と思っていたので「ソウダソウダー」とガヤ的に思いました。

コロナ禍になっておよそ1年半。これまでならオフラインイベント等でできていた認知・利用者の拡大、フォローアップができなくなり、オンライン上でのマーケティング・セールス・カスタマーサクセスの重要度に加え、更に緊急度が増してきたタイミングだったかなと認識しています。

2. Google UX Design Professional Certificate の受講

Connecting The Dots といってしまうとアレなんですが、4月くらいから Cousera の Google UX Design Professional Certificate を受講していて、ちょうどデザインスプリントを学んだところでした。なので「あ、これデザインスプリントやってみるタイミングなんじゃ?」とふと思いました。

ちょうど弊社サービスのダッシュボード改善プロジェクトに絡んでいたタイミングだったこともあり、タイミング良く6月末に開発定例に呼ばれていました。そこでデザインスプリントを起案してみたところ、弊社代表から「いいね。じゃ君主導して!」みたいな鶴の一声をいただきました。

あれそれやるの私なんだっけ? という思いが一瞬頭をよぎりましたが、そういうのを企画するのは嫌いではなかったのと、何よりデザインスプリントをやってみたかったので「あ。はーい。」って感じで実施決定となりました。具体的なことは何も考えていなかったので、完全に丸腰でした。

デザインスプリントの準備

実施の決定から1回目の実施まで1週間程度。ざっと下記の準備をしました。 ゴールは決まっていたので、それ以外の部分を決めていった感じです。

1. 時期と参加者の決定

前述のミーティングでボスに言われたこともあり、ざっくりとしたスケジュール感は決まっていました。

・デザインスプリントは7月上旬に実施

・デザインスプリントはオンラインで。1日2時間ずつくらい時間を取ってやる

・試作〜レビュー〜公開までを7月末までに完了

問題は誰に参加してもらうか?だったのですが、社内に相談。下記の方に参加していただくことになりました。

  • 弊社SaaSサービスに関わるカスタマーサクセスマネージャーとセールス、サポート担当(当事者なので必須参加)
  • 社内のデザイナー(UI観点で意見をもらえそう。かつ私と一緒に Google UX Design Professional Certificate を受講中)
  • 社内の開発担当者2名(どちらも意見をはっきり言ってくれるタイプ)

ちなみに私は小心者なので、こういう時は絶対にYesと言ってくれる・心の仲間になってくれる人から誘うのが鉄則。デザイナーさんにまず一番に声かけしました。誘ったら間髪入れずに「やりましょう!」と言ってくれたので、本当に感謝しています。それから関係者に声かけし、全員が都合の悪くない時間帯を確認し、7月初週の夕方に集まってもらうことにしました。

2. オンラインミーティングで実施するスコープの決定

デザインスプリントは「理解」「アイデア」「決定」「試作」「テスト(レビュー)」の5つのフェーズで構成されています。

すべてをオンラインミーティングでやる必要はないと考え「理解」「アイデア」「決定」までをオンラインミーティングで、残りの「試作」「テスト」はBacklogベースでコミュニケーションを取ることにしました。

デザインスプリントは、本来であればオフラインで1週間(7〜8時間×5日)ガッツリやるものらしいですが、そこまで時間が取れないこともあり、各フェーズ2時間。

念のため予備でもう2時間確保し、合計8時間分のオンラインミーティングをセットすることにしました。

3. ツールの決定

ミーティングツールはいつも社内ミーティングで使用している Google Meet。

デザインスプリントに使うホワイトボードツールは、Figma のホワイトボードツール「 Figjam 」を起用。単純に、「 Figjam で最近タイマー機能が付いたし、Figma 人口を社内に増やしたいし、何より Figjam を触ってみたかった」という個人的な欲求ゆえです。

4. デザインスプリントの方針とコンテンツの決定

まずデザインスプリントをやる上で心掛けたのは3点です。目的の部分にあたるかもしれません。

  1. 参加者に当事者意識を持ってもらうこと
  2. あえて立ち止まって、根っこの部分を話し合うこと
  3. この先、デザインスプリントが終わった後も立ち戻れる場所を作ること

1つめは、「上がブーブー言ってたからやらなきゃ」「何やらめんどくさいものに巻き込まれた」と思われてしまうとサイト改善自体が失敗すると思ったためです。逆に当事者意識があれば、プロジェクトがスムーズに進むはず、と。

ゆえにデザインスプリントの内容もできる限り「問いを投げかけ、それに対して考え・答えてもらう」ような形式にしました。例えば「なぜ私たちはこのサイトをアップデートする必要があるのでしょうか?」といった具合です。

2つめは、デザインスプリントの存在意義そのものでもありますが、これまでの弊社サービスのマーケティング施策は、どちらかというと「傷ができたら応急処置をしている」ように私には見えました。そうではなくて、誰がどんな怪我をしていて、根本的にどんな治療が必要なのか、改めて目線合わせをする機会にしたいと考えました。

3つめは、デザイナーさんからいただいたアイディアです。正直、デザインスプリントとサイト改善がうまくいけばいいとしか思っていなかったので、それむちゃくちゃ大切ですね!ということで採用させていただきました。

デザインスプリントのコンテンツは大きく下記をフレーム化しました。

  • 3C(「Competitor/ 競合(ベンチマーク)」「Company/ 自社」「Customer/ 顧客」)
  • バイヤージャーニー
  • ペルソナ

なお、実施が決まった後に奇跡的に家にデザインスプリントの本があるのを発見し、ざっと読みして参考にできそうな部分に付箋をはり、むちゃくちゃ参考にしました。

5. 事前練習

ざっくりとデザインスプリントで使うホワイトボードのフレームを作り、実施前にデザイナーさんに見せる形でゆるいレビューをしてもらいました。レビューと言うよりは、子供が親に「ねえねえこれ作ったの!見て!!」と言っているようなレベルでしたが。

事前に自分以外の人に見てもらえたことで、やれそうなイメージも沸きましたし、工夫すべきポイントも見えたのでやっておいて良かったと思います。

デザインスプリントの実施

1. 導入・理解フェーズ

初回は、デザインスプリントの目的、ルール、本日のお品書き、ハンドさんをご案内。同時に、Figjam が初めてな人も多いと思うので画面下に表示される各種ツール(付箋、ペン、スタンプなど)も案内しました。

使っているスタンプはすべてFigjamオリジナルです。

理解フェーズでやったこと

  • なぜ私たちは弊社サイトの価格・特徴・ドキュメントをアップデートする必要があるのでしょうか?
  1. 思うこと・感じることを付箋に書いて貼って行きましょう。
  2. シェアしましょう。
  • ベンチマークサイトを見て気がついたことを付箋に書いて貼ってみましょう。 それぞれのページは、何に困っている誰に何を伝えようとしているでしょうか? 良い・わかりやすいところはありますか? 逆に、良くない・わかりづらいところはありますか?
  • 弊社サイトはどのようなページになっているでしょうか?弊社サイトとベンチマークサイトを比較して、気がついたことを付箋に書いて貼ってみましょう。
  • 弊社サービスを喜んで使ってくれる人は誰でしょうか?(どんな人に弊社サービスを使って欲しいですか?)逆に、弊社サービスを必要としない人は誰でしょうか? 思うことを付箋に書いて貼ってみましょう。
  • ベンチマークサイトを使いたい・使っている人はどんな人でしょうか?

ここまで1回目でやったんですが、もう少し深めた方が良いと思い、2回目の半分くらいを理解フェーズで費やしました。

追加でやったこと

  • (バイヤージャーニーの理解)弊社サービス のターゲットが 弊社サービスを知ってから活用するまでの流れを、順を追って考えてみましょう。
  • (ペルソナの理解)弊社サービスのターゲットをちょっとだけクリアにしてみましょう。ステークホルダーはいくつかの役割に分かれています。それぞれのしたいこと・嬉しいこと・嫌なことは何でしょうか?

2. アイデアフェーズ

アイデアフェーズでやったこと

  • 弊社サイトの各ページをどう直すのが良いでしょうか?アイデアの付箋を貼っていきましょう。なお、ここでは実現可能性については置いておき、まずはとにかくアイデアを出しましょう。以前のページ比較も参考にしてください。

ひたすらこれだけやりました。

ただここまで来て、議論が若干表面的になっていたため、予備で保持していた2時間分を使い、改めてベンチマークサイトと、他の、日米のSaaSサービスのWebサイトを比較し、ヒントを得てアイディアを出すという時間を作りました。

3. 決定フェーズ

アイデアフェーズで出たアイデアを少しずつ試作品にしてもらい、決定して次の試作フェーズがなるべくスムーズに進むようにしました。

時間があまりなかったため、大まかな方向性だけ決めて試作フェーズに持ち越しました。

初めてのデザインスプリントで工夫したこと

デザインスプリントでは、限られた時間の中で考えてもらい・発言してもらう必要があります。ゆえに、参加者にはできるだけリラックスしてもらい、楽しんでもらうことが大切と考えています。(と講座でも本でも学んだ)

要は、「能動的に参加できる状態を作り出す」のはもちろん、「迷わせない」「不安にさせない」ということなのかなーと思ったので、Figjam はそのあたりを意識して要素を設置しました。

1.ポップなテイストのスタンプ、休憩所の設置

文字だけよりも、おそらく視覚的に「カジュアルな場なのだ」と認知してもらえたかな?と思います。 WordCamp Japan2021 にヒントを得て休憩所も設置。視覚的に休憩とわかるようにしました。 オンラインイベントに何度か参加した経験から「この場が『視覚的に』認知できること」は割と大事だと思っています。

写真は休憩所。ヤシの木だけ生やしておいたのですが、休憩中に色々足されました(笑)。こういうのもオンラインならではかも。

2.タイマー設定用の時間割を設置

それぞれの問いの横には時間割を載せました。

参加者にはデザインスプリントの内容に集中してもらいたかったこと、皆さんの都合もあるのでなるべく時間通りに終わらせたかったこと、各コンテンツが何分くらいあるのか視覚的に認知してもらえること、そして何より私がタイマーの設定を忘れそうなので、等々の理由からです。

例えば、「書き出す時間5分+シェアしあう時間5分」のような感じで、時間のめどが見えるようにしました。

タイマーはもちろん Figjam の機能を利用しました。

ホワイトボードツールにタイマーがあるのはありがたい

3. 案内役の「ハンドさん」を設置

実施前にデザイナーさんと Figjam を一緒に触った際、Figjamは実際のホワイトボードと違って非常に広大なので、いったん迷子になると、元の場所に戻るのが大変だということに気がつきました。

そこでバーチャルな案内役を考案しました。名前はそのまま「ハンドさん」です。 ただの手のスタンプなのですが、参加者の案内役をするとともに、誰かが迷子になったらハンドさんのコンポーネントのURLを送れば一瞬で戻ってこられるようにしました。(もっとも、運良く誰も迷子にはならなかったのですが)

むちゃくちゃ見えづらいんですけど、コンポーネントを選択すると、アドレスバーに出ているURLがこのコンポーネント固有のURLになるのです
ハンドさんと一緒に、デザインスプリントでやりたいことやルール、お品書きを見ていきました

4. 参加者に助けを乞う

いうても1週間の突貫工事だったので、自分が気がついていない進行上の盲点や改善ポイントがあると思っていました。なので、参加者には、何か気がついたことがあれば言って欲しいと伝えました。

結果、例えば進行につまづいた時に助けてもらいましたし、付箋の貼り方など、面白いアドバイスをもらうことができました。

競合と自社サイトを見比べて「良いと思ったポイントは四角い付箋」「悪いと思ったポイントは丸い付箋」でコメントを入れるようにしました。このアイデア視覚的にわかりやすくてとってもよかったです。
自社サイトに対する丸の付箋(改善ポイント)の多かったこと…

その他

一応デザインスプリントの本に載っていた「アイデアのパーキングロット」も作成。

デザインスプリントをやってみて得たこと

成果

数字的な成果でいうと、Webサイト内の要素やテキストなどのコンテンツを改善することで該当ページからの離脱率の改善ができるのでは?と個人的に想定していたのですが、あまりめぼしい成果はいまのところ見えていません。流入の母数が少ないからなのかもしれませんが、ちょっと残念でした。

ただ、ボスの指示する期限内になんとかサイトをある程度改善することはできたので、それはよかったかなと思います。

また、絆創膏の応急処置的に対応するのではなく、適切な・かつ多様性のあるメンバーに集まってもらい、根っこから考えていくと、発見がたくさんあるということがわかったのも大きな学びだったと感じます。

双方向にすることの難しさ

参加者が発言できるようにかなり気をつけたつもりではありましたが、時間があまりなかったことが影響したのか、少し油断すると「ファシリテーターである自分だけが話している状態」になってしまいました。

用意しておいた予備日を使って、全員でゆっくり話し合う時間を持つことで、なんとか解消できましたが、オンラインだと余計に話を挟みづらかったんだろうなと感じます。

オンラインの場合は、参加者が発言できるようにオフラインの時よりも気を遣う必要があるというのを学びました。沈黙の状態になると、オンラインだと余計に怖く感じますが、参加者の発言を待つ勇気を持とうと思いました。

以上。とりあえず備忘録です。